【本音を暴露】税理士がクラウド会計導入を嫌がるのはなぜ? freee/MFクラウドへの抵抗と本当の理由を解説!
はじめに:進むデジタル化と税理士の「立ち止まり」
近年、「クラウド会計」という言葉をよく聞くようになりました。これは、インターネット上で動く会計ソフトで、銀行口座やクレジットカードと連携して、お金の出入りを自動で記録してくれる優れものです。特に「freee(フリー)」や「マネーフォワードクラウド会計(MFクラウド)」が有名ですね。
会社や個人事業主からすれば、「経理の仕事が楽になる!」「効率化できる!」と大歓迎のこのシステム。しかし、会社の数字を見て税金の申告をする専門家である税理士の中には、このクラウド会計の導入に、なぜか消極的だったり、「嫌がる」ような態度を見せる人が少なくありません。
どうして、便利なものなのに税理士はクラウド会計を嫌がるのでしょうか?単に新しいものが苦手なだけではありません。そこには、税理士というプロフェッショナルとしての「責任」や、事務所の経営に関わる、とても切実な本音が隠れているのです。
この記事では、税理士が抵抗する3つの理由を徹底解説します。
理由1:プロの責任!「全自動」は「全正確」ではないという不安
税理士がクラウド会計を嫌がる最大の理由は、データの正確性、そしてプロとしての「責任」です。
データのミスが命取りになる
クラウド会計は、銀行の入出金データを取り込んで、自動で「これは経費」「これは売上」と仕訳候補を提示してくれる機能が特徴です。この機能は、特に経理の知識が少ないフリーランスやスタートアップにとっては非常に便利です。
しかし、税理士から見ると、この「全自動」が大きな問題になります。
- 自動化は便利だが、人間ほどの判断力はない
初期設定をしっかりしても、イレギュラーなお金の動きがあったり、ルールに曖昧な点があると、ソフトは誤った仕訳をしてしまう可能性があります。 - 「1円の誤差」も許されないのが税理士の仕事:
多くの人は「何千万円、何億円の売上の中で数千円くらいの間違いなら大勢に影響ない」と考えるかもしれません。しかし、税理士は、会社が国に納める税金の額を計算し、申告書を作成する法的責任を負っています。もし誤ったデータで申告し、税務署から指摘された場合、税理士自身にもその責任が及んでしまいます。
「記帳代行」から「間違い探し」への仕事の変化
従来のやり方では、税理士事務所がクライアントの領収書や通帳のコピーをもとに、手作業でデータを入力したり、入力内容をしっかりチェックしたりして、データの正確さをコントロールできていました。これを「記帳代行」と呼びます。
しかし、クラウド会計を導入すると、クライアント側が自動でデータを登録してしまうため、税理士の仕事は「入力・加工」から「レビュー・修正」に変わります。
税理士の本音の一つとして、「クライアントが自動で入力したデータは不正確な場合が多く、それを一つ一つチェックして直す作業は、むしろ従来の記帳代行の確認よりも手間がかかり、精神的な負担も大きい」と感じていることも。
せっかく効率化のためのソフトを入れたのに、結果的に事務所の工数が増えてしまうのでは、嫌がるのも当然と言えるでしょう。
なぜクラウド会計推進派事務所は困らないの?
システムの連携や自動仕訳のルールをきちんと整備し、顧問先での入力と税理士側での入力の分担をしっかりとコントロールできる税理士にとっては、むしろクラウド会計の方が業務を効率化することができる、神ツールとなります。
クラウド会計推進派の事務所では、ソフトに精通した担当者が在籍し、このようなクラウド会計ソフトの運用をしっかりと設計しています。
理由2:切実なお財布事情!「記帳代行」の収入が減る不安
税理士がクラウド会計の導入に抵抗する、もう一つの切実な本音は「お金の問題」です。
安定した「記帳代行」収入の消失
多くの税理士事務所は、顧問先の経理の記帳代行や、記帳内容のチェック作業を行うことで、毎月安定した「顧問料」をもらうビジネスモデルで成り立っていました。クライアントからすれば手間のかかる記帳業務ですが、税理士事務所にとっては安定した貴重な収益源でもあったのです。
クラウド会計が普及し、クライアントが自分自身でデータを自動で入力できるようになると、税理士事務所のメインの仕事であった記帳代行の依頼が激減してしまいます。
クラウド会計推進派事務所は収入は減らないの?
クラウド会計推進派事務所は、開業したての事務所が多く、そもそも記帳代行をメインの収益源としてとらえていない事務所が多くあります。
記帳代行に配置するスタッフも少なくていいので、付加価値を上げるためのサービスなどに注力することができますし、低単価でもたくさんのクライアントを持つことで成立させることもできます。
理由3:データ管理の主導権とセキュリティへのこだわり
機密性の高いクライアントの財務データを守る「セキュリティ」も、税理士がクラウド会計を嫌がる理由の一つです。
インターネット依存とデータ損失リスク
クラウド会計はインターネット接続が必須です。ネット環境が不安定だと業務がストップしてしまいます。さらに、利用しているクラウド会計サービスの会社に万が一、システム障害が起きたり、最悪の場合サービスそのものが停止したりしたら、クライアントの大切なデータが失われるリスクがあります。
税理士は、法律(税理士法)に基づいて、クライアントの秘密情報を厳重に守る義務があります。データを外部のサービス会社に預ける(クラウドを使う)ということは、データ管理のコントロールを他人に任せることになります。
本音としては、「万が一、データが流出したり、なくなったりしたら、サービスのせいにはできない。最終的な責任は自分にある」という強い危機意識もあります。
ITに対する苦手意識
セキュリティに対して強い意識がある一方で、ITリテラシーが低いというのが税理士業界の問題でもあります。
もともと税理士業界では、会計ソフトなどのメインのソフトから、ネットワーク・サーバーなどのインフラまでを、限られた専門業者に管理を委託していることが多く、自社に専任のIT担当者をおいている事務所は稀でした。
クラウドによってITが民主化された現在でもこの状況は変わっておらず、できるだけ使い慣れて安全性が実証されたものだけを利用したいという税理士事務所は多いのです。
「クラウド会計」を選ぶ税理士の動き
しかし、近年では税理士のクラウドに対する意識は変わりつつあります。
まず、前述したような開業後間もない若手税理士が、コストがかからず、業務効率も上げることができるクラウド会計を好んで利用するようになっていきました。
これらの実績に加え、若手の経営者を中心とした事業者がクラウド会計を求めるようになり、従来抵抗感を示していた税理士事務所でも次第にマネーフォワードやfreeeを取り入れるようになってきています。
これまでにあったセキュリティに対する意識も、
- 会計業界全体がクラウドに転向し始めたこと
- 登場から10年以上が立ち、これといった大きなトラブルが報告されていないこと
などから、抵抗感を感じなくなってきている事務所も多くなっています。
まとめ:クラウド会計は「敵」ではなく「進化」のチャンス
税理士がクラウド会計の導入を嫌がる理由と本音は、以下の3つに集約されます。
- プロの責任: 自動仕訳の精度が低く、申告のミスが増えるリスクがある(レビュー・修正の手間が増える)。
- 経済的な不安: 安定した記帳代行収入がなくなり、顧問料の値下げ圧力がかかる。
- セキュリティ懸念: 大切なデータを外部に預けることへの不安と、データ管理の主導権を失いたくない。
しかし、世の中のデジタル化の流れはもう止まりません。クラウド会計の導入を拒否し続けることは、時代の変化から取り残されることを意味します。
これからの税理士に求められるのは、クラウド会計を「収入を減らす敵」として見るのではなく、「記帳代行という単純作業から解放してくれるツール」として捉え直すことです。クラウド会計で空いた時間を使って、クライアントの創業融資の相談に乗ったり、経営状況をリアルタイムで分析して未来のアドバイスをするなど、税理士としてのスキルと知識を活かした「高付加価値なコンサルタント」へと進化することが、求められています。

セブンセンス株式会社
コンサルタント
【プロフィール】
2015年、セブンセンス株式会社に入社。 前職の会計ソフトベンダーにおけるシステム提案の経験を活かし、中小企業を中心としたバックオフィス業務の改善コンサルティングを担当。業務効率化やDX推進を支援する傍ら、デジタルマーケティング領域も管轄している。
freee、マネーフォワード、OBC、PCA、ソリマチなど、主要な会計ソフトベンダーの認定資格を多数保有しており、各社のシステムに精通した中立的な視点でのツール選定・導入支援に強みを持つ。





