基礎控除・給与所得控除改正で激変!2025年の年末調整前に確認しておくべき改正ポイント

管理者

毎年恒例の年末調整ですが、2025年からは大きな改正が適用され、多くの従業員様や経理・人事担当者様が「何が変わるのか」「どこに注意すればいいのか」と不安を感じていらっしゃるかと思います。今回のコラムでは、皆様の給与明細や源泉徴収票に直接影響する重要な3つのポイントに絞って、その核心をわかりやすく解説してまいります。不安を安心に変えるための羅針盤として、ぜひ最後までお読みください。

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2025年の年末調整は、これまでの常識が大きく変わる、まさに「激変」の年ときいています。どういった部分が変わるのでしょうか?

注意すべきポイントは、大きくわけて3つあります。

まず1つ目は、「基礎控除・給与所得控除の引き上げ」です。これまでの所得税の非課税ラインだった「年収103万円の壁」が、原則として「123万円」に引き上げられます 。さらに、所得が低い方には   「160万円」までの非課税ラインが時限的に設けられるという、重要な変更です 。   

2つ目は、「扶養控除・配偶者控除の要件緩和」です。扶養親族の所得要件が緩和されることで、これまで扶養対象外だったご家族が、新たに扶養の対象になる可能性があります 。   

そして3つ目は、大学生など19歳から23歳未満のお子さんを持つご家庭が対象となる、「特定親族特別控除の新設」です。この新しい制度は、お子さんがアルバイト収入を増やすことで、親の税負担が急に増える「崖」のような仕組みを解消し、より柔軟な働き方を後押しするものです 。   

これらの変更点が、年末調整の業務にどう影響するのか。本日は、実務担当者の皆様が「ここだけは押さえておけば安心」というポイントを、分かりやすく整理してお伝えします。

早速ですが、今回の改正で最も多くの人に影響があるのが「基礎控除」と「給与所得控除」の変更だと伺っています。この2つの控除は、そもそもどのような役割を持つものなのでしょうか?

 良いご質問ですね。年末調整の理解には、まずこの2つの控除の役割を把握することが不可欠です。

基礎控除

これは、収入がある人なら誰でも一律に差し引ける“最低限の収入を守ることを目的に設けられた控除”です。たとえば、給与や事業の収入があっても、この基礎控除の金額までは「課税の対象外」にしてくれる、いわば税金を計算する前に確実に守ってくれる枠のようなものです。従来は48万円でしたが、2025年は最大で95万円まで引き上げられます。所得が低い方ほど大きな控除額が適用される仕組みになっていて、負担軽減の効果がより強く働きます。

給与所得控除

こちらはサラリーマンやパート、アルバイトといった給与所得者に特有の控除で、“働くための必要経費”をみなしで差し引いてくれる制度です。たとえば通勤や仕事にかかる雑費などを細かく計算しなくても、一定額を自動的に控除してくれるイメージです。こちらも最低額が55万円から65万円に引き上げられました。

この2つが同時に拡大されたことで、所得税がかからないライン、いわゆる「課税最低限」が大きく上がりました。具体的には、給与収入ベースで見ると160万円までは所得税がかからない水準になります。従来は「103万円を超えると税金がかかる」と言われていましたが、その目安が大きく変わったわけです。

なるほど、それは私たちにとってとてもメリットのある変更ですね。もう少し詳しくお聞きしたいのですが、基礎控除は“最大で”95万円の控除となるということでした。これは、どういうことでしょうか?

 従来の基礎控除は、一律で48万円、つまり誰でも同じ額が控除されていました。ところが…

2025年からは「合計所得金額」に応じて段階的に金額が変わる仕組みに見直されます。
具体的には、所得が低い方ほど控除額が大きくなり、最大で95万円の控除が受けられるようになりました。たとえば、年間の合計所得金額が132万円以下の方は基礎控除が95万円。そこから所得が増えていくと、控除額は95万円、88万円、68万円、63万円、58万円と段階的に減っていきます。

【基礎控除額】

合計所得金額
(収入が給与だけの場合の収入金額(注3)
基礎控除額
改正後(注1)改正前
令和7・8年分令和9年分以後
132 万円以下
(200 万 3,999 円以下)
95 万円(注2)48万円
132 万円超336 万円以下
(200 万 3,999 円超475 万 1,999 円以下)
88 万円(注2)58万円
336 万円超489 万円以下
(475 万 1,999 円超665 万 5,556 円以下)
68 万円(注2)
489 万円超655 万円以下
(665 万 5,556 円超850 万円以下)
63 万円(注2)
655 万円超2,350 万円以下
(850 万円超2,545 万円以下)
58 万円

※注1 改正後の所得税法第86条の規定による基礎控除額58万円に、改正後の租税特別措置法第41条の16の2の規定による加算額を加算した額となります。
※注2 58万円にそれぞれ37万円、30万円、10万円、5万円を加算した金額となります。なお、この加算は、居住者についてのみ適用があります。

※注3 特定支出控除や所得金額調整控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります。
※注4 合計所得金額2,350万円超の場合の基礎控除額に改正はありません。

合計所得金額に応じて段階的に変わるんですね。従業員の皆さんにとってはメリットが大きい制度ですが、給与計算の実務を行っている方にとっては、計算が大変になりそうです。この制度は来年以降も続くのでしょうか?

 いえ、今回のような細かな段階に分かれているのは2025年と2026年の二年間に限った特例的な措置なんです。

具体的には、合計所得金額が132万円以下の方は95万円の控除がそのまま続きます。一方で132万円を超える方は2027年以降一律58万円が適用されることになり、2,350万円を超える高所得者についてはゼロになるという仕組みが維持されます。ですから、2025年と2026年は一時的に複雑になりますが、その後はシンプルなルールに整理されるわけです。

実務面では、年末調整で従業員の合計所得金額を確認したうえで、2025年と2026年については各段階に該当する控除額を反映させる必要があります。そのため、給与計算ソフトや年末調整システムの改正対応版を正しく利用することがとても重要になりますね。

ありがとうございます。よくわかりました。一方で給与所得控除はどのような変更になっているのでしょうか。

はい、給与収入の基準額や計算方法に変更があります。

 これまでは、年間の給与収入が162万5,000円以下の方が一律で55万円の控除、それを超える方は、段階的に給与収入の額に応じて段階的に計算方法が変わるという形でした。2025年からは年間の給与収入が190万円以下の方が一律で65万円の控除、190万円を超える方は、段階的に給与収入の額に応じて計算方法が変わるようになっています。

これに伴って、2026年からは、「源泉徴収税額表」が改正されます。給与計算ソフトなどで源泉徴収の金額を自動計算させずに、固定額として設定している場合は、変更しなければなりませんので注意してください。なお、 2025年11月までの源泉徴収事務についてはこれまで通りで問題ありません。

【給与所得控除額】

給与の収入金額給与所得控除額
改正後改正前
162 万5,000円以下65 万円55 万円
162 万5,000 円超 180万円以下その収入金額
×40%-10万円
180 万円超 190万円以下その収入金額
×30%+8万円
※注:給与の収入金額190万円超の場合の給与所得控除額に改正はありません

詳細は国税庁のHPを必ずご確認ください。https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025004-025.pdf

次に、2つ目のテーマです。基礎控除などが変わることで、扶養控除や配偶者控除の適用要件も連動して変わると聞きました。

はい、その通りです。

基礎控除と給与所得控除の引き上げに伴い、扶養控除や配偶者控除の所得要件も緩和されました 。具体的には扶養親族や同一生計配偶者の合計所得金額の要件が48万円以下から58万円以下に引き上げられています 。これは、給与収入に換算した場合、年収の上限が従来の103万円から123万円への引き上げとなります。

ともなって「配偶者特別控除」の対象となる配偶者の所得要件も変更され、満額控除要件も、給与収入換算で150万円から160万円に引き上げられています 。

控除の要件が緩和されたことで、働き控えによる人手の確保の負担が和らぎそうですね。

確かに、この改正によって所得税の面では働き控えを抑制する効果があるでしょう。

しかし、社会保険料の負担基準は変わっていないため、所得税上の壁を越えても、社会保険に加入することで手取りが大きく減る「手取りの逆転現象」が依然として最大の課題として残っています 。  

多くのパート・アルバイトの方にとって、所得税の負担増よりも社会保険料の負担増の方が手取りに与える影響ははるかに大きい傾向にあります。したがって、今後は所得税上の「123万円の壁」ではなく、社会保険上の「106万円」や「130万円」の壁を意識した働き方を検討される方も多くなる可能性があります 。  

これを見越して、事業主が「一時的な増収である」ことを証明すれば、繁忙期などに一時的に年収130万円を超えても扶養に留まれる例外措置が設けられるなど、社会保険上の壁への対応策も進んでいますね 。  

複数の 「年収の壁」 徹底比較表

年収の壁関連する
制度
判断基準 主な影響
約100万円住民税合計所得金額住民税の均等割・所得割の発生

※課税基準は自治体によって異なるため、
詳細はお住いの地域でご確認ください
106万円社会保険所定労働時間
月額賃金など
勤務先の雇用条件や規模によって
扶養から外れてしまう
123万円所得税給与収入
(実収入)
所得税の課税開始ライン  
130万円社会保険給与収入
(実収入)
扶養者の社会保険から外れる  
160万円所得税
配偶者控除
給与収入
(実収入)
所得税の非課税特例ライン
配偶者特別控除の満額控除ライン  

なるほど。社会保険についても一体で考える必要がありそうです。それでは、年末調整を行うにあたって、注意が必要となる従業員はどのような人になるでしょうか?

特に注意しなければならないのは…

これまで、お子さんなどご家族の方が、年間の給与収入が103万円を超えていたため扶養にできなかったけれど、123万円以下であれば、新たに扶養親族にできるかもしれない、という従業員の方です。

このような従業員の方には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらう必要がありますので、忘れずに周知して、年末調整時までに提出してもらうよう促してください。

配偶者特別控除についても同様です。配偶者の方がパートタイムなどで働いていて、ある程度の給与収入がある場合に、改正後の給与所得控除額を適用して計算し直されると、配偶者特別控除の適用対象になったり、控除額が増えたりする可能性があります。

そうすると、提出してもらう書類が増えたり、記入方法が変わったりするので注意が必要、ということですね。

その通りです。

大学生などのお子さんを持つ親御さんにとって、今回の「特定親族特別控除」の新設は朗報ですね。この制度は、これまでの「特定扶養控除」とどう違うのでしょうか?

はい、この制度は特に大学生年代のお子さんを持つご家庭にとって大きな意味を持つ改正です。

新設された「特定親族特別控除」は、19歳以上23歳未満の親族を持つ世帯の税負担を軽減し、学生アルバイトが「扶養から外れることを恐れて就業調整をする」という、いわゆる「103万円の壁」問題を緩和するために創設されました 。  

この制度の対象となるのは、納税者と生計を一にする、年齢19歳以上23歳未満の親族です 。ただし、この親族の合計所得金額が58万円を超え123万円以下であることが要件となります 。  

従来の「特定扶養控除」では、扶養親族の給与収入が103万円を超えると、控除額(63万円)が段階を経ずに突然ゼロになる「崖」のような仕組みでした。このため、学生は103万円を超えないように働く時間を調整する必要がありました 。  

今回の改正では、この「崖」が「坂」に変わります。特定親族の給与収入が123万円を超えても、188万円までは段階的に控除を受けられる仕組みが導入されます 。  

具体的には、給与収入が150万円以下であれば、従来の特定扶養控除と同様の63万円の控除が受けられます 。その後、収入が増えるにつれて控除額が段階的に減少し、年収188万円を超えると控除が適用されなくなります 。  

【特定親族特別控除 控除額一覧】

特定親族の合計所得金額
(収入が給与だけの場合の収入金額 ※)
特定親族特別控除額
58 万円超 85万円以下 (123万円超 150万円以下)63 万円
85 万円超 90万円以下 (150万円超 155万円以下)61 万円
90 万円超 95万円以下 (155万円超 160万円以下)51 万円
95 万円超 100万円以下 (160万円超 165万円以下)41 万円
100 万円超 105万円以下 (165万円超 170万円以下)31 万円
105 万円超 110万円以下 (170万円超 175万円以下)21 万円
110 万円超 115万円以下 (175万円超 180万円以下)11 万円
115 万円超 120万円以下 (180万円超 185万円以下)6 万円
120 万円超 123万円以下 (185万円超 188万円以下)3 万円
※注:特定支出控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります

詳細は国税庁のHPを必ずご確認ください。https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025004-025.pdf

それでは、年末調整を行うにあたって、特定親族特別控除はどのような影響があるのでしょうか?

この新しい控除を適用するためには、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出する必要があります。

この申告書は、従来の「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に統合され、1枚で4つの控除を申告できる様式となります 。  

これにより、提出書類は簡素化されますが、様式が複雑化し、記入欄が増えるため、従業員にとっては「どこに書けばいいのかわかりづらい」といった混乱が生じ、記載ミスが発生することもあるでしょう。  

申告書には、特定親族の氏名、個人番号、続柄、生年月日、そして最も重要な「合計所得金額の見積額」を正確に記入する必要があります 。合計所得金額の区分によって控除額が変わるため、この見積もりが非常に重要となります。正しい所得金額を記載してもらえるように事前に給与明細を確認してもらうなど、しっかりと周知するようにしましょう。

最後に、今回の改正を受けて、私たち従業員や年末調整の実務を担当する企業は、具体的に何に気をつければ良いでしょうか?

はい、今回の改正は、実務面でも例年以上に丁寧な対応が求められます。ここでは、従業員様と企業様、それぞれの視点から、年末調整をスムーズに進めるためのチェックポイントをお伝えします。

この申告書は、従来の「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に統合され、1枚で4つの控除を申告できる様式となります 。  

1. 従業員向け:提出前のチェック

ご自身の収入だけでなく、扶養親族の所得の見積もりを正確に行ってください 。特に、パート・アルバイトの年収が123万円や160万円に近づく場合は、収入と手取りの関係を再確認し、働き方について再検討する良い機会です。  

新しい様式は複雑化し、記入欄が増えています 。特に、特定親族特別控除の記入欄や、複雑になった所得の計算方法に注意し、記入ミスがないか慎重に確認してください。  

所得要件の緩和により、これまで扶養対象外だった親族が、新たに扶養の対象となる可能性があります。もし該当する親族がいる場合は、「扶養控除等(異動)申告書」の再提出が必要になりますので、勤務先にご確認ください。  

2. 企業向け:スムーズな年末調整のための対策

年末調整業務に使用している給与計算システムやクラウドサービスが、今回の改正に適切に対応しているか、事前にベンダーに確認することが不可欠です 。複雑な計算や新様式への対応が自動化されていれば、実務担当者の負担を大幅に軽減できます。  

今回の改正内容は、従業員の皆様にとって分かりづらい点が多く、混乱を招きやすいです。年末調整の書類配布時には、新しい控除や所得要件の変更点をまとめた分かりやすい説明資料や、記入例を添えて、従業員の理解を促すことが重要です 。  

従業員からの問い合わせが増加する可能性に備え、事前にFAQを作成するなど、対応体制を整えておくことをおすすめします 。また、問い合わせ内容によっては、税理士など専門家への相談も有効です。

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