【静岡の中小企業向け】税理士なしでクラウド会計を導入する危険な落とし穴と回避策
1. はじめに:クラウド会計は「魔法のツール」ではない
静岡県内で事業をされている多くの中小企業の皆様にとって、「クラウド会計」は、経理業務を劇的に楽にしてくれる夢のようなシステムに見えるかもしれません。銀行口座と連携して自動で仕訳をしてくれる機能(自動仕訳)のおかげで、経理の時間が大幅に短縮され、業務効率化(DX)の強い味方になります。
しかし、この便利なツールを、専門家である税理士のサポートなしで導入・運用することは、思わぬ大きなリスクを企業にもたらす可能性があります。
「税理士費用を節約したい」という気持ちは分かりますが、専門家のチェックがない状態でクラウド会計を導入すると、逆に追徴課税(罰金)や、会社の信用を失うような重大な問題を引き起こす「落とし穴」にはまる危険があるのです。
このWeb記事では、特に静岡県内の中小企業が税理士不在のままクラウド会計を導入する際に知っておくべき、セキュリティ、運用、税務の3つの視点から、そのリスクと、私たちができる具体的な回避策をわかりやすく解説します。
2. クラウド会計特有の「導入支援」の壁
クラウド会計を導入する際、最初のシステム設定(初期設定)を専門家に依頼したいと考えるのは当然です。しかし、実はこの「導入支援」のサービス提供体制が、ソフトの種類によって大きく異なり、税理士の必要性を高める要因となっています。
2-1.従来のパッケージソフトの場合(勘定奉行やPCA会計など)
以前から広く使われてきた勘定奉行やPCA会計といったパッケージソフトには、「ユースウェア業者」と呼ばれる導入支援を専門とする会社が存在します。
これらの業者は、地域のシステム会社などがその役割を担っていることが多く、税理士事務所から独立して、ソフトのインストールや運用サポートのみを提供しています。このため、企業は「ソフトの導入支援」と「税務顧問」を分けて契約することが可能でした。
2-2. freeeやマネーフォワードクラウドの場合
一方、新しいクラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワードクラウドなど)では、導入支援のみを提供している独立したユースウェア業者が少ないのが現状です。そのため、クラウド会計の導入支援は、税理士事務所がその役割を担っているケースがほとんどです。結果として、導入をスムーズに進めたい静岡県の企業は、適切な初期設定と税務の検証を確保するために、必然的に税理士事務所と税務顧問契約と導入支援をセットで検討せざるを得ないことが多いのです。
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3. 「会計ソフトの導入=会計知識の自動取得」ではない
税理士の仕事は、単に「帳簿をつけること」だけではありません。企業を守るための「保証機能」を提供している、と考えましょう。具体的には、次の3つの重要な役割を果たしています。
- システム設定の保証: クラウド会計を始めたばかりのとき、勘定科目の設定や外部連携の方法を正しく指導し、システムが間違った処理をしない土台を作ります。
- 税務コンプライアンスの保証: 最新の法律(インボイス制度や電子帳簿保存法など)に基づいて、あなたの会社の会計処理が違法な状態になっていないかをチェックします。
- 戦略的な経営判断: 財務やキャッシュフローの健全化や、税務調査が入ったときの対応をサポートします。
この「保証機能」がないまま、自分で高性能なクラウド会計を使い始めると、それはまるで、運転免許なしで高性能スポーツカーに乗るようなものです。便利な分、間違った使い方をすると、大きな事故(税務上の失敗)につながります。
税理士の助けが特に必要になるのはどんな時?
事業規模が小さく、取引が非常に単純で、消費税の申告が不要な個人事業主であれば、自分で対応できることもあるでしょう。
しかし、次のどれか一つでも当てはまる場合は、専門家のサポートを受けることを強くお勧めします。
| 判断のポイント | サポートが必要な理由 |
| 法人での税務申告が必要な場合 | 個人の確定申告よりも税務処理が複雑になり、専門的な判断が必須となる。 |
| 取引が多く、経理業務の負担が大きい場合 | データ量が増えるほど、小さなミスが大きな間違いにつながるリスクが高まる。 |
| 税務調査のリスクがある場合 | 調査が入った際に、税務署との交渉や根拠の説明には専門家が不可欠。 |
4. 最大の落とし穴:税務コンプライアンス(法令遵守)リスク
クラウド会計導入における最も深刻なリスクは、実はセキュリティではなく、法令違反による税務リスクです。
4-1. 「間違ったデータ」を申告する危険
クラウド会計ソフトは、あくまで「入力補助ツール」であり、「税務判断ツール」ではありません。
たとえば、自動仕訳機能で会計データがリアルタイムで作られても、その仕訳の背後にある「税務上の判断」(固定資産の償却方法、どの費用が経費になるか、など)が間違っていたら、申告書の内容が誤りとなります。
この状態で税務申告を行った場合、意図しない過少申告(税金を少なく申告してしまうこと)が発生し、税務調査が入った際に、本来納めるべき税金に加えて追徴課税(罰金)を課されることもありえます。税理士に支払う報酬よりも、この追徴課税の額の方がはるかに高くなるケースも少なくありません。
4-2. 法律改正への対応遅れ
日本の税制や法令(電子帳簿保存法、インボイス制度など)は頻繁に改正されます。法令・規制への対応の不備は、クラウド会計のリスクの一つとされています。
ソフトそのものは法令改正にいち早く対応してくれるのですが、肝心の運用でつまづいてしまうというユーザーは後を絶ちません。税理士は、プロとしてこれらの法改正を常にチェックし、顧問先のシステム設定や業務フローを新しい法律に合わせて調整する役割を担います。これが不在の場合、自社の限られたリソースで複雑な法令を追跡し、ソフトの設定を変更し続けなければなりません。対応が遅れると、企業のデータ管理体制そのものが法律の要件を満たさなくなり、知らず知らずのうちに法令違反の状態に陥る可能性もあるのです。
5. まとめ:「コスト削減」より「リスク回避」を最優先に
静岡県内の中小企業がクラウド会計を導入する際、税理士不在は、単なる効率化の停滞ではなく、経営を揺るがすコストに直結します。
税理士への報酬は、「会社を守るための保険」であり、「リスク管理のための必須投資」と捉えましょう。特に法人企業や取引が多い企業は、効率化の恩恵を安全に享受するためにも、必ず専門家のサポートを確保しましょう。

セブンセンス株式会社
コンサルタント
【プロフィール】
2015年、セブンセンス株式会社に入社。 前職の会計ソフトベンダーにおけるシステム提案の経験を活かし、中小企業を中心としたバックオフィス業務の改善コンサルティングを担当。業務効率化やDX推進を支援する傍ら、デジタルマーケティング領域も管轄している。
freee、マネーフォワード、OBC、PCA、ソリマチなど、主要な会計ソフトベンダーの認定資格を多数保有しており、各社のシステムに精通した中立的な視点でのツール選定・導入支援に強みを持つ。





